秋の旋風 疾走一閃
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


10月に入ってもなかなか暑気は去らなくて、
日によって地域によっては、夏日もざらという按配ながら。
それでも体育祭の方は、
爽やかな日のうちになんとか催すことが叶い。
お嬢様たちの健やかな奮闘に、やさしい秋の日が沸いた。

「さてお次は。」

その体育祭でも活躍した、三華様がたも意気軒高。
部活の方での参加は、
斉唱の発表だったり華道部の生け花の展示のレイアウト担当だったり、
グラウンドに屋台を出しての青空カフェを催す
武道部連合の当日のお運び当番を何時間か受け持ったりと、
そちらはもはや慣れたもので、
特に大変な仕儀でもないお嬢さんたちで。

「毎年やってますしね。」
「もう4年目? 5年目かな?」

こらこら身も蓋もない。(あはは)
それとは別、野外音楽堂にてのガールズバンドの演奏
…の助っ人というのが後夜祭に待ち受けていて、
そのイントロデュースにてミニコント、もとえ寸劇もどきを演じるのももはやお約束。
演奏には、過日の某AKB風、
どこかトラディショナルなブレザータイプの制服姿という衣装で立つとして、
寸劇の方での装いは、題材に合わせて
美少女戦士風だったり中世の欧州風だったりと
なかなかに多種多彩で。
シンパシィのお嬢様がたも、
今年は一体どんな趣向をなさるのかと
こっそりながらも多きに期待しておいで。

「今年は戦国武将風ってのはいかがです?」

洒落ではないが衣装の意匠はお任せ、
企画担当のひなげしさんが そう持ち掛ければ。
白百合、紅バラ、金髪娘のお二人は、
ちょっぴり考えこむようなお顔をして見せ、

「衣装が…。」
「重いのはヤですよ、ヘイさん。」

中世欧州風、銃士隊の衣装の方がまだ動きやすいしと、
そんなお云いようをなさる辺りが、
聞きようによってはただの我儘ではなさそうな、理にかなっている言い回しかもだが、

 “五月祭で着るときはごねるくせに…”

女王役をエスコートする騎士役のコスプレでは
え〜っなんてごねるお二人なの、
こっちが覚えてないとでもお思いか、いやいや分かっていてのお茶目に違いない。
だって、ねえとお顔を見合わせた金髪娘のお二人、
ふふーvvと悪戯っぽく笑ってこちらを見つめてくる辺りが、
年端のゆかぬお茶目な悪戯っ子みたいで、
ついには ひなげしさんまでもが吹き出す始末。

「判りましたよ。
 まま鎧や甲冑を、レプリカででも揃えるのは手間ですしね。」

某ももくろみたいな凝ったステージ衣装にしてもいいかなと思っただけですと、
あっさり引いた電脳小町さんだったのへ、

「といいつつ、例に出したくらいだもの、
 特撮ヒーローのみたいな
 ギミック付きのを実は設計済みなんじゃないの?」

白百合さんがツッコミを入れれば、

「う…。」

図星だったか、
ひなげしさんの小さな肩が一瞬揺れてたりして。(こらこら)

「???」

ちょっぴり専門用語が入ってたやり取りへ
キョトンとしている紅ばらさんへは、

「ヘイさんたら、戦国武将風の衣装と言っといて
 実はあちこちから警棒やら十手やらが飛び出すような
 仕掛け満載の仮装を計画してたらしいって話ですよ。」

やや乱暴に噛み砕いてやった七郎次も七郎次なら、

「〜〜〜っvv////////」
「こらこら喜ばない。」

武器満載の衣装だなんて、
なんて画期的…と思ってしまうヒサコ様だったりしたらしい
あからさまな頬の紅潮ぶりへ。
七郎次が呆れた傍ら、
平八がアハハと笑いだしたのは言うまでもなかったり。
どんなビックリが飛び出すことやら、
当日が楽しみなような、怖いようななのは、
場外のこっちも同じでございます。(おいおい)



    ◇◇


「おお、綺麗に走る子だなぁ。」
「? 何がだ?」

パトロール中の一休み。
コンビニで菓子パンと飲み物を買い揃えてきた同僚が、
先に平らげたそのまま 何げに窓の外を見やっていたのだが。
それもまた何気なく洩らしたものだろう一言が、
こちら、佐伯巡査部長には嫌な予感しか寄越さない。
この時期のここいらは特に“物騒”だからで、
本来、管轄も担当も異なる自分が、
なのに此処の警邏に組み込まれているのは どうしてかを
はっきりくっきりと思い起こさせるから。
普通一般にいう“物騒”への警戒なら、
日頃から研ぎ澄ましている優秀さを発揮するだけで
問題なんてないのだが、

「ほら、向こうの歩道を走ってる女の子。
 制服のスカートって重いし長いから、
 大きな歩幅で全力疾走なんて構えたら
 脚に巻き付いて邪魔なはずだし、
 夏の薄い生地や短いのなら
 加速すれば舞い上がってめくれてしまうから、
 どっちにしたって走りにくいだろうに。」

すらすらと語られる“対象”の特徴に、

 「〜〜〜〜。」

あああ、やっぱりかと
胃の辺りがぎゅぎゅうと締め付けられる。
表向きの申し合わせでは、

 陽が落ちるのも早まるこの時期、
 某お嬢様学校の生徒たちが暗い中帰宅の途につくのを狙う
 不埒な輩が出やせぬか、と

どこの誰とは言わないが それなりのお人から、
陰ながら見守ってやってほしいとの申し入れがあったので…なんて。
それだとて特別扱いにあたって 警察の仕事じゃあなかろうに、
ギリギリの穏便な言い訳として持って来て
こんな風に警邏のお仲間に混ざっている佐伯さん。
その実、とある顔ぶれが
法規すれすれ、違法かもしれない暴走をしでかしたときに居合わせるため、
決して暇じゃあない身ながら
わざわざ時間を割いて足を運んでいるわけで。

 “いろんな意味合いから真逆な事情ですよね、これって。”

とか何とか云ってる間も惜しいと、
足場代わりの覆面パトから素早く降り立つ
その行動が物語る。

「な、なんすか?」

何か重大な張り込み途中に 目的の存在が現れたのを思わせるほど、
冴えた反応で切れのいい所作を見せた助っ人さんへ、
所轄の刑事さんが今度は驚かされていて。
そんな相手へ、

「この先、○丁目のコンビニの倉庫前に誰か先回りさせて。」

スマホで近辺の地図を呼び出して、何やら想定した位置を告げたそのまま、
自身は素晴らしい瞬発を見せて駆け出している。

 “林田さんの操ってる監視カメラの連携ライン、
  クラック出来れば もちょっと手の打ちようもあるのに。”

彼女らだって一応は女子高生として学園内に身を置く存在。
異変を察知し駆け出すお嬢さんたちの情報源なのが、
電脳小町ことひなげしさんが
この周辺に独自に設置しておいでの監視カメラとセンサーならしいとまでは、
元同僚…というのも微妙ながら、
前世で 北軍の知将・白夜叉の露払いを担う“双璧”なぞと謳われた同士、
今の生では何やら怪しい存在の、丹羽良親がこそりと教えてくれており。
彼は彼なりに見守ってもいるらしいが、
だったら、もうちょっとその切り札を分けてくれりゃあいいものを、

 『う〜ん。
  だってねぇ、微妙にプライベートなデータだし。』
 『お前はよ〜

そんなやり取りがあったことも、今はとりあえず置いといて。
獲物へロックオン状態の猟犬もかくやという俊足で
手入れの良い金の髪を形のいい頭へ貼りつける勢い、
ほぼ人通りのない住宅街の生活道路を
人ならぬ疾風のように駆けてゆくお嬢さん。
同僚さんが言ったよに、それは見事な走りっぷりで、
無様にもバタバタとアスファルトを叩く物音を立てるでなく、
むしろ靴の裏がちゃんと地を蹴っているかも疑わしいほどの軽快さ。
途中で、車道に交わる地点へ差しかかると、
ガードレールの白へ向け、
弾みをつけてひょいと駆け上がったそのまま、

 それが跳び箱の踏み切り板ででもあったかのよに

ほんのひとまたぎで中空へその痩躯を躍らせて、
あっという間に傍らの塀の上へと足場を移した鮮やかさ。

 「うわっ!」

付き合いよくも自分と同じように彼女を追っていた同僚さんが、
驚愕のあまりに声を上げたが、
佐伯刑事はそれどころじゃあない。

「何てショートカットを使いますかね。」

さっき 先回りしてくれとスマホで指示を出した地点は間違ってなかったようで、
そこへと一直線に向かうべく、
こちらのお屋敷のお庭の端っこ、斜めに横切ろうと飛び込んだ、
間違いなく 三木さんちのお嬢さんだった模様。
そこまで察しがついたはいいが、

 「…続きます?」
 「出来るわけないだろよ。」

体力的にも不可能だし、
何より こちらは勤務中の公僕の身、
犯人追跡中でもないのに無辜の市民のお宅へ乱入するわけにはいかぬ。
ここまでの追跡も あまりに思いがけない発端だった上に
それなり結構ハードだったか、肩で息をしている両人で。

 「おや、シチさん、試着中でしたか?」

もしもそのまま追跡を続けておれば、
そちらはヴェルサイユ宮殿から飛んで来たようないでたち、
レース使いも豪奢なスカートの下へフリルをぎゅぎゅうっと詰め込んだ
サテンのロングドレスを勇ましくも片手で掻き上げての横っ跳び、
やはり途中の道中では 某お宅のお庭の端っこの塀を、
ごめんあそばせと乗り越えた豪傑、草野さんチのお嬢様まで来合わせていた、
とんでもない合流地点に辿り着けていたはずで。

 「こやつらですか、
  一年生の買い出し班にちょっかい掛けては
  お小遣いをせびっていた悪いヲトメらは。」

 「……。(頷、頷)」

 「斉唱部もやられたのですね。可哀想に。」

向かい合うのは、着崩したブレザータイプの制服も見ようによっては堂にいった、
こちらの顔ぶれと同じくらいの世代のお嬢さんたちと、
その後ろで文字通りの後ろ盾のつもりか、
しゃがみ込んでこちらをにやにや見やっている青年たちで。

「何だよ、あんたら。」
「学芸会のお稽古なら、他所でやんな。」

アハハと笑い飛ばしかかったが、そんな彼女らの視野から一人がサッと消え。
え?と何とか気づいたクチの子が、
わっと自分のペタンコのバッグを押さえたがもう遅い。
無造作にサイドポケットに突っ込まれてあった紙包みを抜き取られており、

 「……。」
 「あ、ホントだ。
  ウチのガッコの部活の名前の領収書が入ってるよ、これ。」
 「雑貨屋さんで何か買ったのを掠め取って、
  あとでこれ付けて返品でもしようって腹だったのかな?」

現場に一番乗りしていた平八がそんな悪事をちょろりとほのめかせば、

「う…。」

表情が引きつるところが正直というか幼いというか。

 「うるさいなぁ、あんたらに何かしたわけじゃないじゃん。」
 「そうよ。それに今のもひったくりの一種じゃあないの?」

開き直りの一歩手前、そんな雰囲気の拙い罵倒を投げ始めるも、

 「おや。現場を押さえてないとでも言いたいのかな?」
 「何でまた、アタシらが的確に此処へ来れているか、
  察しがつかないらしいですわね。」

防犯カメラってのは最近は住宅街でも結構設置されているんですのにねと、
一応 “正当な”主張を持ち出して。
再びぐうの音も出ぬという顔をさせて 論破しての、さて。

「ごちゃごちゃとうるさい姉ちゃんたちだな。」
「俺らの連れに何か用か?」

形勢を読んでのことだろう、
奥向きから男衆らがのそのそと立って来たけれど。
だがだが、そんな気配を威嚇ともとらず、むしろ クフフとほくそ笑み、

「あら、痛い目を見なけりゃ判らない方々だったとか?」

心持ち顎を引いての、下から射貫くような睨み上げ目線にて。
先鋒担当の紅ばらさんが、
先程はそりゃあ洗練された所作動作の中、
流れるような走りでまとわせていたスカートを跳ね上げ、
ざっと屈んでバネを溜めたのも刹那の一瞬。
立ち上がったと同時、姿が掻き消えていて、

「わっ!」

端っこに立ってた鼻ピアスのブリーチ頭が、
うわと身をよじるよに半身を引いたその後背で。
いつ通り過ぎたのか、さっきまでは正面にいたくせっ毛のお嬢さんが
手にした警棒の先にキーチェーンを引っかけてくるくる回して見せておいで。
おそらく、超振動で繋具を崩して掠め取ったらしいのだが、

 「なっ!」
 「何だ何だ、どうやって千切ったんだ、こいつっ。」

極力、体には触れずに仕掛けてやったというに、
既に腰が引けてる情けなさ。
得体の知れない、だが間違いなく、
触れれば危険という存在感をアピールしおおせたところで、
やっとこさ、あちこちから警邏の皆さんが駆けつける気配が立って。

『あらやだ、秋の警戒週間でもあったのかしら。』
『交通安全週間の警戒をこんな住宅街で執るなんて変な話ですしね。』

そんな白々しいお云いようをする、
アントワネット様や女子高生コマンダーの皆様へも、
やっぱりかと額を押さえた警視庁の鬼警部補から
各位の保護者に連絡がいくまで あと数時間……。





   〜Fine〜  16.10.21


 *タイトル勇ましかった割に、
  何かなし崩しの〆ですいません。
  書き始めた折は余裕もあったんですが、
  復帰したてのお仕事に弾みがつきそうで。
  暇だと収入も減るから 痛しかゆしだなぁ。(こらこら、罰当たりな)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る